2010年11月19日金曜日

負の世界遺産

世界遺産に登録されている遺跡や景観、自然というものは、
「人類が共有すべき普遍的な価値を持つもの」とされています。

一方で、戦争や人類差別など、人類が犯した罪を証明するものも、
逆の意味で私たちに忘れてはならない教訓を伝えています。
これらは「負の世界遺産」として登録されています。

たとえば、アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所は、
ナチス・ドイツがユダヤ人を虐殺した強制収容所で、
現在のポーランドにつくられたものです。

南アフリカ共和国のロベン島は、
周囲の海流が強く、脱出が困難なことから、
政治犯の監獄として使われていました。
後に大統領となったネルソン・マンデラ氏も収容されていました。

他にも、奴隷貿易の拠点だったセネガルのゴレ島や、
タリバンに破壊されたアフガニスタンのバーミヤン渓谷の遺跡、
そして、日本では広島の原爆ドームが登録されています。

こうした負の世界遺産と呼ばれるものは、
人類が犯した悲惨な出来事を人びとの記憶にとどめ、
二度とその過ちを繰り返さないようにするために登録されました。

教育や文化の振興を通じて、戦争の悲劇を繰り返さない、
というのがユネスコ設立の理念です。
そして、ユネスコ憲章の前文には、
「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、
人の心の中に平和の砦を築かなければならない」とあります。

2010年10月21日木曜日

世界無形遺産

ユネスコは、2003年に開かれた総会で、
「無形文化遺産保護条約」を採択しました。
それに基づいて登録される世界的な価値のある無形の文化財が、
「世界無形遺産」です。

この世界無形遺産の対象となるのは、
民族音楽、ダンス、劇などの芸能や、
社会的習慣、儀式、祭礼、伝統工芸技術、文化空間などです。

世界無形遺産リストには、
・代表リスト(人類の無形文化遺産の代表的な一覧表)
・危機リスト(緊急に保護する必要のある無形文化遺産の一覧表)
という2種類があります。

たとえば、エジプトの叙事詩「アル・シラー・アル・ヒラリア」、
イタリアの「シシリアの人形劇」、
コロンビアの「バランキーヤのカーニバル」、
インドの「ラーマーヤナの伝統演劇」などがあります。

日本でも、2001年に「能楽」、
2003年には「人形浄瑠璃文楽」、
2005年には「歌舞伎」がリストに掲載されました。

2010年9月3日金曜日

世界自然遺産の登録基準

ユネスコの世界遺産に登録されるためには、
「顕著で普遍的な価値」を持っていなければなりません。
そのうえで、世界遺産登録基準として定められた項目のうち、
少なくとも1つは満たしていることが必要となります。
そのなかでも、世界自然遺産の登録基準とされている項目は、
以下のようになっています。

・ひときわすぐれた自然美及び美的な重要性を持つ、
 最高の自然現象または地域を含むもの。
・地球の歴史上の主要な段階を示す顕著な見本であるもの。
 これには、生物の記録、地形の発達における重要な地学的進行
 過程、重要な地形的特性、自然地理的特性などが含まれる。
・陸上、淡水、沿岸、および、海洋生態系と動植物群集の進化と
 発達において、進行しつつある重要な生態学的、
 生物学的プロセスを示す顕著な見本であるもの。
・生物多様性の本来的保全にとって、
 もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいるもの。
 これには、科学上または保全上の観点から、
 すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが
 含まれる。

これらの基準に基づいて、各国が暫定リストに掲載し、
提出した地域を、ユネスコ世界遺産センターの評価依頼を受け、
国際自然保護連合(IUCN)が現地調査をして報告します。
現在、日本で登録されている世界自然遺産は、
「屋久島」「白神山地」「知床」の3つとなっています。

2010年8月3日火曜日

世界遺産とユネスコ

世界遺産条約は、1972年のユネスコ総会で採択されました。
(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)
この条約に基づいて登録されるのが世界遺産となります。

そのユネスコ(UNESCO)というのは、
United Nations Educational, Scientific and Cultural Oganization
の頭文字をとったもので、国際連合教育科学文化機関のことです。

ユネスコは、国連の経済社会理事会の下におかれた専門機関で、
教育、科学、文化の発展と推進を目的として設立され、
フランスのパリに本部が置かれています。

ユネスコは、その活動における目標として以下を挙げています。
・万人のための基礎教育
・文化の多様性の保護および文明間対話の促進

万人のための基礎教育については、
識字率の向上や義務教育の普及のための活動が行われます。
一方、文化の多様性の保護および文明間対話の促進については、
世界文化遺産に関する活動が行われているのです。

2010年7月3日土曜日

世界遺産の誕生

世界遺産が生まれたのは、
1960年代にエジプトのナイル川流域に建設計画が持ち上がった
アスワン・ハイ・ダムがきっかけでした。

このダムが完成すると、エジプト南部のナイル川流域にある、
アブ・シンベル宮殿からフィラデルフィアまでのヌビア遺跡群が
ダムの底に沈んでしまうことになります。
そこで、ユネスコ(国連教育科学文化機関)は、
ヌビア水没遺跡救済キャンペーンを開始したのです。

世界60カ国の支援によって、考古学調査が行われた結果、
ヌビア遺跡内のアブ・シンベル神殿は移築されました。
そして、このキャンペーンをきっかけにして、
歴史的価値のある遺跡、建築物、自然などを、
国際的に保全していこうという機運が生まれたのです。

1972年、ユネスコのパリ本部でユネスコ総会が開かれ、
「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」
が満場一致で成立しました。
この条約に基づいて登録されたものが世界遺産です。

文化遺産は、優れた普遍的価値をもつ建築や遺跡などで、
自然遺産は、優れた価値をもつ地形や生物、景観をもつ地域です。
また、危機遺産は、危機にさらされている世界遺産で、
後世に残すことが難しくなっているものです。

その他、戦争や人種差別など、
人類が犯してしまった罪を証明するものも、
「負の世界遺産」として登録されています。

世界遺産リスト登録の第1号は、アメリカのイエローストーンや、
ガラパゴス諸島などの12件です。(自然遺産4、文化遺産8)
エジプトのヌビア遺跡群も、
1979年に世界文化遺産として登録されました。
また、日本がこの世界遺産条約を批准したのは1992年のことです。

2010年6月5日土曜日

世界遺産の問題点

世界遺産の登録をめぐっては、幾つかの問題が指摘されています。
そのひとつが、文化遺産と自然遺産の数の不均衡です。
2009年現在、登録されている世界遺産は総数で890件で、
文化遺産は689件、自然遺産は176件、複合遺産は25件です。

文化遺産が自然遺産のおよそ4倍という不均衡の理由のひとつは、
自然遺産の保護が難しいということがあります。
自然遺産に登録されているインドの「マナス野生生物保護区」、
中央アフリカ共和国の「マノヴォ=グンダ・サン・フローリス
国立公園」などは危機遺産にも登録されています。

文化遺産と自然遺産の登録数の不均衡のもうひとつの理由は、
自然遺産の場合、対象となるのはひとつの山や谷ではなく、
ある程度の面積をもつ地質、生態系、景観などの全体です。
したがって、1つの教会、遺跡、という文化遺産と比べ、
その「普遍的な価値」の見極めが難しいということがあります。

また、登録の条件として、登録された後、将来にわたって、
継承していくための保護や管理が必要とされます。
そのために、保全状況を6年ごとに報告し、
世界遺産委員会での再審査が行われるのですが、
やはり、生態系全体の保全というのは難しいのです。

2010年4月28日水曜日

世界文化遺産の登録基準

世界遺産として登録されるには、
「顕著で普遍的な価値」を持つことが大前提となります。
また、世界文化遺産、世界自然遺産それぞれに、
一定の基準が設けられており、
少なくともそのうちの1つを満たしていなければなりません。

世界文化遺産の登録基準としては、
1.人類の創造的才能を表現する傑作である。
2.ある期間を通じて、またはある文化圏において、建築、技術、
  記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、
  人類の価値の重要な交流を示すもの。
3.現存する、または消滅した文化的伝統、または文明の、
  唯一の、または少なくとも稀な証拠。
4.人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、
  技術の集積、または景観の優れた例。
5.特に、不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている、
  ある文化(または、複数の文化)を代表する伝統的集落、
  または、土地利用の際立った例。
6.顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、
  信仰、または、芸術的、文学的作品と、直接に、または明白に
  関連するもの。

たとえば、日本の世界文化遺産である法隆寺地域の仏教建築物は、
上記の基準の1、2、4.6の基準を満たしていると認められ、
また、原爆ドームは6の基準を満たしていると認められ、
紀伊山地の霊場と参詣道は2、3、4、6の基準を満たしている、
として登録されました。

2010年3月25日木曜日

世界遺産登録と環境の変化

世界遺産に登録されると、それを将来に継承していくため、
景観や環境を保護していかなければなりません。
一方で、世界遺産に登録されたことにより、観光客が増加して、
周辺地域の開発など、環境に影響を与えるケースも増えています。

ドイツのケルン大聖堂は、世界最大のゴシック様式の建築物です。
しかし、1996年に世界遺産に登録された後、
周辺の高層建築物計画による景観破壊が問題となりました。
そのため、2004年には危機遺産に指定され、
近隣の高層ビル建設計画とのトラブルもあり、
大聖堂の周囲では、高さ規制が行われることになりました。

同じく、ドイツ・ドレスデンのエルベ渓谷も、
2004年に世界遺産に登録されたのですが、
2006年には「危機にさらされている世界遺産」のリストに
登録され、世界遺産リストから除外される可能性もある、
との警告を受けてしまいました。

交通渋滞を解消するのに、エルベ渓谷を渡る橋の建設計画がある、
という理由からでした。
橋を建設することによって、
周辺の文化的景観が損なわれてしまい、
文化遺産としての要件が認められなくなるというのです。

そして、日本においても、
岐阜県、富山県の白川郷・五箇山の合掌造り集落は、
世界遺産に登録された後、観光客が激増しました。
しかし、これらの集落に実際に暮らしている住民の家の中を、
心ない観光客が覗き込んで、トラブルになったりしています。
世界遺産に登録されることによって、
その環境が悪くなってしまうこともあるのですね。

2010年2月25日木曜日

世界遺産の登録は

世界遺産に登録されるまでの流れとしては、
まず、登録を求める地域の政府の担当機関が候補地を推薦し、
暫定リストを提出することからはじまります。

この暫定リストは、世界遺産の登録前に、
各国がユネスコ世界遺産センターに提出するリストです。
暫定リストへの掲載に当たって、
世界遺産委員会は、次の点を求めています。
1.その遺産の「顕著で普遍的な価値」の厳格な吟味。
2.保全活動の適正な実地。

提出された暫定リストから、
ユネスコ世界遺産センターが評価を依頼します。
文化遺産候補については、国際記念物遺跡会議が現地調査をし、
自然遺産候補については、国際自然保護連合が現地調査をします。

この調査結果をもとにユネスコ世界遺産センターが判定して、
世界遺産委員会で最終的な審議が行われ、
認められれば晴れて正式登録ということになります。

2010年2月3日水曜日

日本の世界遺産候補

現在、日本で登録されている世界遺産は14件です。
そのうち、文化遺産は11件、自然遺産は3件となっています。
また、今後の世界遺産候補として、
以下のようなところが暫定リストに挙げられています。

まず、文化遺産としては、
・彦根城
・古都鎌倉の寺院・神社
・平泉の文化遺産
・飛鳥・藤原の宮都とその関連遺産群
・長崎の教会群とキリスト教関連遺産
・富士山
・富岡製糸場と絹産業遺産群
・国立西洋美術館本館
自然遺産としては、
・小笠原諸島
といったようになっています。

また、それ以外にも、世界遺産に登録されることを目指して、
暫定リストに載せてもらおうと、多くのところが活動しています。
北海道のクリスキー自然保護区と国後の自然、摩周湖、函館要塞、
北海道から青森、岩手、秋田にまたがる道南・北東北の縄文遺跡、
山形の出羽三山と最上川が織りなす文化的景観、
栃木県の足尾銅山、長野県の善光寺、新潟県の佐渡銀山、
富山県の立山・黒部、京都府の「天橋立」、高知県の四万十川、
四国八十八所霊場と遍路道、などといったところです。

日本には、いいところがたくさんあるということですね。
こうしたものは、たとえ世界遺産に登録されなくても、
後世まで大切に残していってほしいと思います。